第19回全美連作文コンテスト「優秀賞」作品 「新しい時代の美容の使命」 黒沼雅子

「新しい時代の美容の使命」
黒沼雅子
還暦を迎え、私の美容人生を振り返れば、美容師になったことはとても幸せな日々を迎える原動力となっています。私が美容師になりたいと思ったのは小5のときでした。その美容師さんは笑顔の素敵な女性で、その魔法のような手先で仕事をしている姿が輝いて見えたのです。私も美容師になったら、そんな人になれるのかな?。そんな憧れからのスタートでした。やがて美容師となりカットやパーマコンクールの出場や練習に明け暮れる毎日の生活にやめていく同僚も沢山いましたが、私は辛いと感じるより新しいことを覚える楽しさの方が感覚的には強かったのです。まるでアスリートになったような感覚でした。
「シャンプーで指名客をたくさん取れる技術者になりなさい。技術者の心がそのまま伝わる大事な技術です。」そんな先生の言葉の意味が年数経験するほどに理解できるようになり、一人前の技術者になれる喜びは、やがて人の喜ぶ顔が自分の喜びと感じられるようになっていきました。開業時も不思議と何の不安もありませんでした。好きなことが仕事として成り立ち、環境が変化しても、ずっと続けていけるのです。
 そして着付けの社内検定上級受験をきっかけに組合加入した後、1級技能士の資格を取得いたしました。一人では一人の感覚や情報しかありませんが組合加入で先輩美容師から沢山のことを学び、つながりを頂いています。またハートフル美容師として介護施設のボランティア活動に始まり、実践のノウハウを活かした仕事もするようになりました。ここでの仕事は髪を切るだけでなく、お客様の気持ちに寄り添い笑ったり人生の行く末を感じたりしています。神経や体力は店の何倍も疲れても、後の清々しさは格別です。この方達に、微力ながら役に立てたという達成感もあるのです。そして認知症でも人の心は感じ取れることに驚くと同時に、ごまかしの効かない純粋な気持ちをしっかりと受け止める技術者として勉強させて頂いています。そこでも美容の力は大きいと感じます。単にカットするのではなく、どれだけ満足していただけるか髪型や会話の内容でどんどん笑顔が増えるのを実感できます。そして「今日も会えてよかった。」と言って頂き、やりがいを感じ、ハートフルの勉強した事が、この職場でも生かすことができ、良かったと思っています。今では介護施設での仕事も当然のようですが、その当時の施設では理容業や民間企業が参入しており「美容師は必要ありません。短く切れば良いのですから。」との返答に愕然とし「これは、 もっと理解してもらわなければ。ハートフル美容師こそ必要なのでは。」と感じ、自分達美容師の事や御家族の負担が大きいので、これからの時代に必ず訪問美容は必要になると話し、いつでも要望があれば連絡をくださるようお願いをしたのです。そして、その時の為に先輩美容師たちに指導をしていただきボランティアカットを続けていました、そして2年経ったある日訪問美容の依頼が入ってきました。
 昨年末に美容所の美容師が衛生講習を受けている者でなければ訪問美容もできない方向性は、つきましたが現場がまだまだ他業種が占拠しています。時代による仕事の方向性はどんどん変化しているので、時代の先取りを肌で感じ取る為にも組合をうまく活用し、団結力でこの美容業界を盛り上げていく事を、これからの若い美容師達にも期待します。
 そして美容師の意識改革も必要です。美容師は華やかな仕事としてのイメージで考えている現場もあり、それは個人のモチベーションの自由ですが、これからの美容師は美の追求だけに終わらず社会貢献の一環としての位置づけ、地域の包括的活動や見守り隊的存在、若者への教育、就活、婚活の情報提供等あらゆる面でのサポート役として地域や社会の、とても重要な位置づけと可能性があります。そのためにも常に世の中の動向に目を向け、お客様への情報提供もできる、大きな意味でのアドバイザーになれたらと考えます。世の中が合理的な方向へと、レストランウエディングなど小規模結婚式に変化し、美容師の仕事も待つだけではなく発信する事も重要で、この変換期が業界発展のチャンスでもあるのです。
 成人式も今や呉服店の無料着付等が横行し美容業界も大きな打撃を受けています。呉服店での仕事を受けるのは業界にはマイナスと考えたこともありましたが、多くの現場体験と数をこなすことによる技術の習得につながり、この仕事において「私は美容師です。私たちは常に新しい技術も勉強し、お客様に喜んでいただける技術をプロとして提供している」とPR も心がけています。それが店での営業でも反映されプラスに働いています。
 また一人暮らしが多い昨今では地域での見守り隊的要素が充分にあります。個人経営の店では家族構成や事情等、個人情報を数多くいただいております。他言しないまでも日常生活の変化等は、いち早くキャッチできます。認知症で一人での生活が難しい方を病院や役所と連携し介護施設へ入所できた時は事故に繋がらなくて良かったと、ほっといたしました。
 ある時には長年の信頼関係からお客様の出会いのきっかけ作りで婚活のお手伝いをし、また中学生の社会体験を通じて学業とは違う成功体験をすることで自分の可能性に気づき、無気力だった顔に笑顔や自信が増え大きく変化する場合もあります。この未知の体験が未来の美容師への夢作りにも役立つことができればと、職場体験をサポートしています。 このように、これからの美容の可能性は、いくらでも広がり、美容師一人一人の進むべき方向性に沿って幾通りもあると思います。
 それだけに、これからの世の中においての美容師としての位置づけや拡大する可能性、社会貢献度等、美容師達の意識改革が最も大きな力になると確信しています。また理容師の発信力が世の中にも大きく影響する時代がやって来ているのではないでしょうか。
 そしてこの個々の美容師の集合体である組合が団結力を持って美容業界を守っていく体勢となっています。今や国家資格不要案等につながる自由化の波が押し寄せており、組合が防波堤となって、この美容業界も守られている現状を、多くの美容師が認識することも重要です。そして一人でも多くの美容師がこの団結に加わることで、美容業界全体を守り、守られながら、個々の美容師の無限の可能性を大きく広げていけることを期待しております。

黒沼雅子
ビューティーサロン パンジー

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